第二東名高速道路
「里山生態系保全検討」における自然環境保全対策の提案


2011年6月17日
提案者 愛知生物調査会

ヤマセミの繁殖回復対策(河川生態系復元への試案)


− 愛知県におけるヤマセミの生息状況 −

 ヤマセミは現在環境省のレッドデータリストには入っていないが、愛知県では絶滅危惧TB類(レッドデータブックあいち2009)と評価されている。理由として愛知県内における繁殖ペア数が2009年の時点で10ペア程度以下と推測されたからである。
 愛知県におけるヤマセミの生息数減少が顕著になったのは1995年頃からであり、それ以前は県内各河川の上流域から中流域で繁殖期にヤマセミの姿を見ることは困難でなかった。中でも矢作川水系は繁殖期にヤマセミの生息数が多く、現在でも矢作ダムまでの本流部分で3ペア程度、支流である巴川水系で2ペア程度の生息が確認されており県内生息数の半数以上を占めている。今回の工事区域の青木川水系や乙川水系においても、かつてはヤマセミの姿を普通に見ることができたが、2001年以降繁殖期の記録は皆無となっている。
 矢作川本流と巴川水系においても最下流部分で繁殖期に確認されていた個体が消滅しており、巴川水系では岩倉地区の記録が2004年まで、本流部分でも平戸橋周辺の記録が2010年以降消滅している。奇しくもNEXCOの管轄する東海環状道路の周辺で繁殖していたものが全て姿を消している状態である。1991年頃までは豊田市琴平地区でも繁殖期の記録があり、巣穴のあった部分には現在高速道路が建設されている。


− 生息数の減少理由 −

 ヤマセミの生息数減少傾向は愛知県に限られたものでなく、少なくとも東海地方各県では愛知県と同様の傾向が見られる。全国的にみても、多くの地域で生息環境は悪化している。ヤマセミが減少している最大の要因として、次の2点が考えられる。
@ 生息場所における砂防ダム建設や河川改修、道路建設などにより魚類や両生類の生息環境が破壊されたことによる餌の減少。
A 林道を含む道路建設や開発事業に伴う安全対策により、ヤマセミの営巣環境として不可欠な露出した土の崖や自然崩落環境の消失。


− 当該道路建設の中でヤマセミの繁殖回復(河川生態系復元)を図ることの意義 −

 第二東名高速道路における自然環境保全対策の基本的な考え方は「別紙」に示したとおり、地域自然環境特性(地域生態系)の維持を柱としている。当該路線(区間)の場合は、水系(湿生地・細流・河川)が地域生態系を支える基盤的要素のひとつとして挙げられており、「ヤマセミの繁殖回復対策」は大きな意味で、河川生態系の復元に該当する意義深いものといえる。また、水系を重視し保全対策の柱にするという考え方は現検討会の中でも過日改めて確認したところである。
 先述したとおり、現在工事が行われている工区は全て矢作川の支流域であり、かつてはヤマセミが繁殖していた地域である。従って、繁殖回復の可能性が強く残されたエリアといえる。
 ヤマセミが繁殖できる環境として十分な餌と営巣環境が必須であることを前述したが、ヤマセミの採餌範囲は半径数kmと広く、繁殖に必要な餌の量は満たされるものと考えられる。当該道路建設では魚類を含む生物の生息環境に配慮した工事がなされていることで、ヤマセミの餌動物が大幅に減少することは考えにくい。最大の問題は営巣環境の消失であり、この問題が解決できれば繁殖回復の可能性はかなり高くなると考えられる。
 この地域におけるヤマセミの繁殖回復が実現すれば、この道路建設が環境に配慮した工事であることの大きな象徴となる。ヤマセミの繁殖環境は全国的に喪失傾向にあり、近い将来国の絶滅危惧種に指定される可能性が高いが、ここで回復例をつくることができればその知識を全国に広めることも可能である。


− 過去の対策事例 −

 2003年東名高速道路から東海環状道路に繋がる部分の第二東名高速道路が建設されることになった折に、豊田市琴平地区の里山環境保護のために造られた垂直のコンクリート壁に円形の穴を開け、ここにカワセミやヤマセミの営巣を誘致することを考えた対策がある。5m程度より上部に設置したものにはヤマセミ、それ以下にはカワセミの営巣を期待した。ヤマセミを対象にした実施例はおそらくこの時のものが最初である。結果的にヤマセミ、カワセミの利用はなかったが、巣穴の条件を変えたところフクロウが営巣した。(次項“活動・事業3”に記述)
 野生生物の繁殖場所決定は、各個体の産まれた環境に従う傾向が大きいため、本来の営巣環境が消滅、あるいは悪化した地域において、新たに創出された人工環境で繁殖に成功した場合、その子供は繁殖の際、同様の人工環境を選択することになる。そうした例はブッポウソウ、チョウゲンボウ、ハヤブサなどで知られている。いずれも営巣誘導を目的として創出した環境ではないが、本来の繁殖環境である自然樹洞や崖穴に替えて橋梁や高層建築物など人工構造物で繁殖する個体が増加している。


− 対策の内容(男川橋左岸のヤマセミ用営巣環境の設置)−

[1] 男川橋左岸に人工の土崖を造る。
[2] 男川橋の設置希望場所は河岸であることでヤマセミが見つけ易く、位置としても最適で高さも十分確保できる。橋桁の下に設置すれば雨の影響を受けにくく、橋脚の北西側に設置することでさらに雨による劣化を防ぐことができる。また、男川橋では左岸地上の橋脚周辺が立入り禁止区域となるのでここに人工の土崖を設置すれば崖の設置に関する安全上の問題が解決すると考えられる。
[3] ヤマセミは崖の2m〜10m程度の高さに巣穴を穿って営巣するが、好んで営巣する高さは5m〜7m程度である。崖は垂直に近いものを好み、上部がオーバーハングしている崖を好むので、こうした崖が設置できれば利用の可能性はかなり高くなる。
[4] 土崖は橋脚の北西側にできるだけ橋脚の幅に近く設置すると良い。土崖の幅を広くする目的は、毎回の営巣毎に新しい巣穴を掘るので沢山の穴が掘れるようにするためであり、できれば上下線の橋脚に設置した方がなお良い。土崖の厚さは最低2m(厚い方が崩れ難いのであれば、いくら厚くても問題ない。高さは10m程度。4.5m以下の部分と7.5m以上部分は岩石などの骨材や鉄筋などの補強材を入れ、樹脂などを混入して固めても問題ない。4.5m〜7.5mの部分については赤土や粘土など崩れ難い土が良いが、表面近くを赤土や粘土にしてそれより奥を細かいサバ土混じりにすればなお良い。それでも崩落が懸念されるならば50cm〜100cm置きに合成樹脂の網を敷いた層状にしても良い。


− その他 −

 繁殖期におけるヤマセミの採餌範囲は巣穴を中心に何キロにも及び、男川橋で営巣した場合、行動範囲は額田インターから茅原沢の範囲を超えるものと思われる。この範囲の中でも河川の付け替えなどが実施されているが、河床の形状にも配慮して単純な平面でなく浅瀬や深みなどを配置し複雑な形にして、餌となる魚の生息環境を良くすると共にヤマセミの採餌し易い環境にすることも大切である。
 道路建設の中で、最も規模の大きな高速道路建設であるからこそ実施できる環境整備がある。通常の道路建設では不可能な立入り禁止区域の設定も高速道路では場所によっては可能である。また、高速道路建設の技術水準は極めて高いものがあり、NEXCOこそ特殊な繁殖環境を必要とするヤマセミの保護対策を実施できる数少ない会社といえる。

−以上−